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コラム

2025.10.28

シングルモルトと酵母|意外と知らない発酵がもたらす香味

  • ウイスキー知識
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酵母はウイスキーの“縁の下の力持ち”

ウイスキー造りに欠かせない酵母。糖をアルコールと炭酸ガスに変える発酵の主役であり、香味形成にも大きく関わります。
ウイスキーで主に使われる酵母はエール酵母ディスティラリー酵母。それぞれが異なる個性を与えると言われており、前者は芳醇で複雑な香味後者はクリーンで発酵効率に優れた酒質が特徴です。

【酵母による影響】

  • 糖を消費してエタノールを生成
  • アミノ酸やエステル類など香味にかかわる成分を生成
  • アルコール収率

など

発酵が生む香りの魔法

発酵工程は、単なるアルコール生成の場ではありません
酵母はアルコールのほかに、酢酸エチルやエチルエステルといったフルーティーで華やかな香りのもとを生み出します。また発酵の長短によっても酒質は変化。短時間では穀物感のある重厚な味わい、長時間ではすっきりと軽やかな仕上がりになります。

エール酵母とディスティラリー酵母の黄金比

1950年代に開発されたディスティラリー酵母は、発酵の早さとアルコール収率の高さで現在の主流となっています。しかし、エール酵母との併用でさらなる複雑みが生まれることが判明。併用することでエール酵母も「成熟酵母」となり、多様な成分が加わり香味の奥行きが増します。
まさに1+1=3の化学反応です。

発酵槽と微生物の共演

発酵槽の材質も香味を左右します。ステンレス製は衛生管理や温度調整に優れる一方、木製槽は常在菌による発酵促進が期待できます。さらにウイスキー造りには乳酸菌も欠かせません。乳酸発酵によってポットスチル内部の硫黄化合物を除去し、軽やかな酒質を実現します。

蒸留所ごとの“蔵つき”文化

興味深いのは、蒸留所内に住み着く常在菌の存在です。徹底清掃後でも数週間で元の菌相に戻ることが確認されております。日本酒の「蔵つき酵母」と同様に、ウイスキーにも蒸留所独自の微生物が関わっていることでしょう。蒸留所に常在している小さな働き者たちが、ウイスキーの個性を引き出していると思うとロマンを感じずにはいられません。

まとめ

ウイスキーの香味は、原料や熟成樽だけでなく、酵母や乳酸菌、そして蒸留所独自の微生物によって形づくられます。普段は表舞台に出ない“発酵の世界”ですが、その影響力は計り知れません。もし蒸留所見学で酵母違いの原酒を試す機会があれば、その奥深さを実感できるはずです。
この視点を知ると、次の一杯がきっともっと面白くなるでしょう。